富士通研究所のWide Learning™とは?

科学的発見のプロセスを模倣したAI技術

AI(Artificial Intelligence)=人工知能の技術の進歩は目覚ましく、私たちの生活の中にも実装されるようになってきました。Wide Learning™は、科学における「発見」のプロセスから着想を得たAI技術です。

科学における「発見」のプロセスでは、以下の手順を繰り返します。

  1. 仮説を考える
  2. 観察や実験で得られたデータを使って、仮説が正しいかどうかを確かめる
  3. 仮説が正しくなければ、新しい仮説を考える(1に戻る)

この手順を繰り返して生き残った仮説が、科学における新しい理論として「発見」されたことになります。

ストーリー:太郎くんの「水の沸点」仮説

最初の仮説

たとえば、太郎くんは水の沸点に興味があります。自宅で何度か実験し、「水の沸点は100℃である」という仮説(仮説Aとします)を考えました。

その後、太郎くんはお父さんと一緒に富士山に登りました。富士山の山頂で実験したところ、水が88℃で沸騰することを観察しました。

この事実は、仮説Aの説明とは合致しないので、仮説Aは正しくないことになります。

新しい仮説B

太郎くんは、新しい仮説Bとして「沸点は一定でなく、平地での沸点は100℃だが、標高が上がるほど沸点が下がる」を考えました。仮説Bは、自宅での実験結果と、富士山頂での実験結果を両方とも正しく説明できています。仮説Bは、この時点において新しい理論として「発見」されたことになります。

その1ヶ月後、強い台風が太郎くんの自宅を通過しました。

この時、太郎くんが自宅で実験したところ、水の沸点は98℃でした。この事実は仮説Bで説明することができません。仮説Bは正しい仮説ではなくなってしまいました。

仮説のさらなる発展

そこで太郎くんは新しい仮説Cとして「平地の沸点は、好天時は100℃であり、荒天時は98℃である。さらに、標高が上がるほど沸点が下がる。」を考えました。

仮説Cであれば、これまでの実験結果のすべてをうまく説明できます。仮説Cは、この時点において新しい理論として「発見」されたことになります。

このように仮説の考案と、観察や実験による検証を繰り返しながら、少しずつ真実に近づいていく、というのが科学における「発見」のプロセスなのです。

水の沸点は「1気圧(≒1013hPa)の時に約100℃であり、気圧が下がるほど沸点が下がる」ことが知られています。

富士山の山頂(約650hPa)や、強い台風(約950hPa)の通過時は、気圧が通常の1気圧より低いので、沸点が下がっていました。

太郎くんの仮説は、標高や天候に着目していましたが、実際に関係があるのは気圧だったのです。

このように、科学的発見のプロセスにおいて、観察や実験で得られた膨大な数のデータ項目(天気・気温・湿度・気圧・風の向き・屋内/屋外など)のどれを用いて仮説を構築するかがもっとも難しい問題だといえます。

しかも、単一の項目で正しい仮説を構築できるとは限らず、複数の項目を組み合わせながら正しい仮説を構築する必要があるのです。

重要な仮説を漏れなく発見

Wide Learning™は、この科学的発見のプロセスをコンピュータ上に実装したAI技術です。

ただし、人間が仮説を1つずつ考えるのに対し、Wide Learning™は、入力データから考えうるすべての仮説を網羅的に調べます。そして、それらの仮説の正しさを統計的に確かめることにより、重要な仮説を漏れなく発見します。

これにより、人間では調べきれなかった膨大な量の仮説を、AIによって短時間で検証することが可能になりました。さらに、発見した仮説を用いて、予測や分類などの知的な判断を自動的に行うこともできます。

このように、Wide Learning™の一連の挙動は、科学における論理的かつ客観的な思考プロセスを再現したものであるので、途中の計算過程や最終判断の根拠を理解しやすいというメリットがあります。さらに、人間ではとても扱いきれない膨大な量の仮説をコンピュータが調べつくすことで、これまで人間が知らなかった新しい理論を発見できるかもしれません。

仮説を発見する

もちろん、Wide Learning™はビジネスシーンでも活躍します。具体例として、デジタルマーケティングを考えてみましょう。

Wide Learning™は、購買データにおける全項目(性別・婚姻の有無・年齢など)の組み合わせを網羅的に検証し、ある製品を購入した人と購入しなかった人を分類する仮説を発見します(右図)。

発見した仮説は、たとえば「賃貸物件に住んでいる未婚の男性は購入する可能性が高い」「未婚の女性は購入する可能性が低い」など人間にも理解可能であり、有益な知識も同時に得ることができます。

さらに、Wide Learning™は発見した仮説を用いて新しいお客さんが商品を購入する可能性を判断してくれます。

従来のAIとは異なり、Wide Learning™は判断の根拠を説明できるため、現場の担当者(たとえば営業さん)はAIの予測結果を納得して受け入れやすくなるのです。