Wide Learning™活用事例:TBS番組「選挙の日2021」における選挙分析

2021年10月31日:テレビ・ラジオ・新聞掲載

開票速報でAIの分析結果を示すのは日本初

生放送で日本初の試み

これまでの選挙の開票速報においては、専門家が当落の要因をどう解説するかが一つの柱となっており、様々なデータをもとに当落の要因を説明できるAI技術の活用が期待されます。

2021年衆議院選挙で、選挙当日に情勢を報道するための分析AIとして、Wide Learning™が日本で初めて生放送にて活用されました(※1)。

※1「TBSが「選挙の日2021」当落速報で、富士通の「説明可能なAI」を活用」


激戦理由を発見

今回、激戦となった選挙区について、その激戦理由の発見に焦点をおきました。

これまでの常識や、「この人は強いから」「この政党は勢いがあるから」などの主観的な理由ではなく、具体的で根拠がわかりやすい理由です。 過去データから計算された重要な組み合わせとその当選率・落選率に基づいて現在の候補者を当てはめ、AIならではの分析を実行しました。

図は激戦区の報道画面の例ですが、上の候補者と下の候補者が票を競っている理由を、それぞれの候補者の強み・弱みとして表示しています。

画面の見方を、上の候補者を例にとって説明します。この候補者の強みは「前回出馬+複数回当選+政党支持率上向き」で「過去の当選率 90%」とあります。これは、「前回出馬して、かつ、複数回当選していて、かつ、所属政党の支持率が上向き」の条件に当てはまる過去の候補者のうち、90%の候補者が当選していることを示しています。

この例では、それぞれの候補者において、強みにおける過去の当選率と弱みにおける過去の落選率が拮抗しています。さらに、2人の候補者の強み・弱みと過去の当選率・落選率を並べてみても拮抗しており、まさに激戦と言えます。

報道された強みの例

大阪での日本維新の会の候補の強みを発見

開票速報番組での報道に当たり、Wide Learning™で選挙データを分析した結果、興味深い激戦の理由を見つけることができました。

今回の衆議院選挙を振り返ると、日本維新の会が躍進したと言えます。特に大阪府では候補者を立てた15の小選挙区全てで勝利したのです。

これに関連して、番組では大阪府における日本維新の会の候補の強みとしてAIの分析結果「日本維新の会+無党派層が減少+大阪府(当選率86%)」を提示しました。つまり、日本維新の会の候補者に関して、選挙直前の数か月で無党派層の割合が(全国的に)減少傾向にあるとき、大阪府で出馬した場合の過去の当選率は86%でしたが、今回の選挙も同様のケースである、という分析結果でした。

大阪府で日本維新の会が強い傾向にあることや、無党派層の割合の増減が関連することなど、Wide Learning™は選挙の知識を持っていません。

ではどのような計算をしてこの組み合わせが出たのでしょうか。


231の特徴を分析

分析に使用したのは、過去3回分の衆議院選挙における小選挙区のべ約3000人超の候補者データと選挙結果です。

候補者の特徴として、政党名、出馬都道府県、小選挙区における当選回数、推薦・支持を受けているか、世襲かどうかなど、選挙結果に影響しそうなデータの他、出馬する選挙区やその都道府県の年代・世代の人口比率、政党支持率の推移、無党派層の割合の推移データなども使用しました。

これら231個の特徴を組み合わせた条件を作成し、その条件を満たす候補者が過去に何人いて、そのうちの何人が当選または落選したか、ということをWide Learning™を使って計算しました。


大阪では維新はいつも強いわけではない?

 「大阪府では維新が強い」という印象がありますが、過去3回の衆議院選挙においては、大阪府における維新の選挙結果は、のべ43人の候補者が出馬し20人が当選しており、勝率は47%でした。これを強み・弱みで示すと、「維新+大阪府(当選率47%)」となります。その3回の選挙結果をそれぞれ見てみますと、2012年は86%と高い勝率ですが、2014年は36%、2017年は20%と、2012年に比べてかなり低い数値です。

これに対してWide Learning™では、特徴の1つ「無党派層が減少」を組み合わせることにより、2012年の時に強かったという計算結果を導きました。「無党派層が減少」という特徴は、選挙直前の数か月で、無党派層の割合が全国的に減少している、ということですが、これに該当するのは2012年であって、2014年、2017年においては、無党派層の割合は増加していました。


高速に計算できるわけ

今回は全部で231個の特徴から、当選率・落選率が高い特徴の組み合わせを選び出しましたが、この例では3つの特徴(「大阪府」「無党派層が減少」「日本維新の会」)が含まれています。

特徴を3つ選んでその組み合わせで強み・弱みを計算するだけでも、組み合わせ方は231×230×229÷(3×2×1)=2,027,795通りです。この中で候補者のうち、1人にしか当てはまらない組み合わせや、当選率が50%の組み合わせの計算をしてもあまり意味がありません。

つまり、組み合わせがどのくらいの候補者に当てはまるのか、組み合わせの当選率・落選率が高いかどうかという基準を使って、必要な計算だけを網羅的に行うことにより、高速性を実現しているのです。

報道に使う強み・弱みの選別

平均110個の強み・弱みから激戦理由を分析

Wide Learning™は、それぞれの候補者ごとに、強み・弱みを多数出力します。

今回報道された激戦区における候補者においては、平均で110個出力されました。このうち、対立候補の勢力が拮抗していることを示すような強み・弱みの組み合わせを、報道で取り上げました。


世襲でも弱みになり得ることも分析して報道

この例の他、Wide Learning™による分析で、世襲が強みにも弱みにもなり得ることをデータだけから示唆し、報道に活用しました。

選挙専門家の見識とも一致するところであり、今後、このようなAI分析で得られた結果から新しいインサイトを得られないかどうか、選挙専門家とも議論していきたいと考えています。

人間中心のAIを目指して

富士通は、人間を中心としたAIの活用を目指しており、今回の取り組みでは、倫理面でも社内で議論を重ね、候補者や有権者の名誉や尊厳を損なうことのないよう、AIによる選挙分析やその結果の取り扱いに留意しました。

今後、倫理的な観点もふまえ、さらに有用な分析や付加価値の提供につなげていきたいと考えています。